なぜ家は存在するか、『未来のコミューン 家、家族、共存のかたち』1月25日刊行


未来のコミューン_オビなし

装幀 間村俊一、挿画 大鹿智子
定価:本体3,200円+税
四六判上製 320頁
ISBN978-4-900997-73-8

かたち三部作」の最終巻の公刊が目前となりました(2019年1月25日、インスクリプトから)。本書は「なぜ家は存在するか」についての検討から始まり、共同体を生み出すかたちの力について検討したものです。これでクブラー『時のかたち』の翻訳経験を経て、外環境としての地球の大地から、内環境としての人間、そして彼らを守る器、取り巻く社会までの見取り図を描いたつもりです。『未来のコミューン』について、「あとがき」ほぼ全文を以下に掲載することにしました(出版社による案内にあるように、近代的共同体についての「めくるめくプロファイリング」を展開しています。興味を持たれたら是非ご入手ください)。

あとがき

生きることとデザインをすることはつながっている。 より正確にいうと、生きることを続けようとすることと、身の回りのかたちを調整し、そこに適当な役割や意味を与えようとすることは、必ずつながっている。その最もみじかな人類の成果が、人間を守る器としての家であった。 本書では家に不可避的に生じてしまう様々な事象を具体的にあげた。そしてそれらを生み出す家の構成を露わにするために、その生物的、社会的、歴史的意義を私の経験的回路からまず再検討しようとした。

まず、このような家の構成に気づいたのは、第一章・化モノの家で論じたように日本の伝統的民家における暗い部屋─ナンド─の特殊な役割を知った時であった。それは家屋形式が全く違うインドネシアの高床住居にも通底する構成であった。ここで大事なことは、初源的な家の構成は、もとより普遍的であるため、将来においても必ずそれは様々な事象を出現させることである。本書はそのような気づきからはじめられたが、完成には予想以上に長い月日がかかった。というのも、書くことによって出現する新たな意味の進展に私自身が戸惑い、その咀嚼に時間がかかったからである。

第二章・神の子の家は、説話「三匹の子ブタ」たちが選択した家を建てる素材の順列(藁、枝、煉瓦)に対する素朴な疑問から始まった。そして同話の複数の歴史的ヴァージョンを渉猟する中で、この話にはある時期に、前近代と近代以降それぞれの家が意味を違えるところの決定的な徴が刻まれていた。これは決して予想しえなかった結論であり、さらにその結末で次章三章における近代住宅成立の最も具体的な条件の導出という課題が現れた。このように、家の構成に検討を加えることで、さらに新しい構成的問題が出現するという継続的なプロセスで本書は書き進められた。

これら作業と並行して、私の運営する研究室ではウィーンの建築家アドルフ・ロースによる全論考の翻訳プロジェクトが進んでいた。その過程で彼のテクストに、生活空間に対する同様の構成的意図を見出したことは幸いであった。二〇世紀初頭に「装飾と犯罪」を発表、装飾を弾劾し近代建築の立役者になったはずの彼の論考は、むしろ生活一般の律し方としてのデザイン全体を論じていた。そのなかで、時にはその背景となるヨーロッパ文明の根幹が鋭く語られていた。ロースの論考の射程を論じた第四章によって、近代以降の住宅に過去から変わらずに内在している課題群が筆者の前に湧き上がってきた。 これら検討領域の広がりは、近代における家を構成する要素についての、その外延をさし示すこととなった。家の追求が、ロースというヒンジで一転し、家の外部に向かっていくことになった。この経緯が、最終的な書名を「未來のコミューン」とした理由である。家と「未來のコミューン」との関係の定義は二五六頁を参照していただきたい。

それ以降の第五章からエピローグまでの四編は、その重要な課題群に向かいあった結果である。 第五章は空間論である。フリードリッヒ・エンゲルスによる一九世紀労働者住宅街レポート、二〇世紀初頭に実現した田園都市、オルダス・ハクスレーの近未来小説までを援用し、それらの知られざる接線を発見しつつ、予測された近未来の社会像とその時空間の構造を描いた。それはいまだに到達可能なディストピアとして現前している。

第六章は共同体論である。成員の維持方法を共同体成立に関わる根源的問題として見出した、近代アメリカの宗教的コミューンを扱った。その活動をハンナ・アーレントの言う人間の「はたらき」─labour, work, action─の三階梯の視点から見直すことによって、彼らの特異と思えたふるまいから逆に人間活動の普遍的構造を導き出した。

第七章、エピローグは住み方のデザイン論であり、家の範疇の再組織化を検討している。家は人々の生を守るべきものである。その極点を精神医学者R・D・レインらが組織した「反治療施設」であるキングズレイ・ホール前後の活動に見出し、その射程を論じた。レインらは、人間特有の「病」発生の場所を社会と個人の境界に位置する「家族」に見出したのだが、その意味を初期のクリストファー・アレグザンダーが論じたかたち─コンテクスト論から検討し直している。

そしてエピローグは治癒の場所の批判的回復を、べてぶくろ という具体的な場所での経験を通じて試みたのである。結局それらが本書で提出することになった、未来のコミューンにむけての基本プロットになっている。

ひとつひとつ謎を解くように書き進めてきた各章は、ふりかえってみれば断片的なデモテープの集積になってしまっていた。当初の目的もみるみる変化し、それらは自分にとって制御の難しいデーモニッシュな存在となっていた。これらを公にするにあたっては第三者の的確な批評が必要になっていた。私はその役割を、インスクリプトの丸山哲郎氏に求めた。
氏の承諾を受け、書籍化のための作業が開始された。断片的なテキストに対する氏の批評は容赦なく、その独善や欠落や飛躍を指摘してくれた。その結果として当初のテキストは真に大幅に書き直され、さらに有意で決定的な加筆で縫合された。『未来のコミューン』という本書のタイトルもまた加筆作業中の賜物である。彼の協力がなければ、おのれの活動の身の丈を明らかに超えている本書を公開する勇気は生まれなかった。…

なお、初出一覧は以下となります。リンクのあるものはその初期の論文の全部もしくは一部が読めるようになっています。あとがきでも特に記したように、一冊の書物にまとめるために、編集者の厳密な査読協力を得て、いずれも大幅に改稿、加筆しました。

イントロダクション  家の口  『現代思想 柳田国男特集』2012年 09 月所収「常の民家の際にて」を改題

第1章  化モノの家   10 1No.50, 2008年所収「化モノ論ノート」を改題

第2章  神の子の家  『d/sign』No. 18, 2010年所収「三匹の子ブタの家」を改題

第3章  パイピング建築論 家における聖と俗  『d/sign』No. 18, 2010年「家の食道」を改題

第4章  装飾と原罪  『d/sign』No. 17, 2009年「装飾という原罪」を改題

第5章  科学から空想へ  Nakatani Norihito’s Blographyにてヴァージョン1を公開、2012年 10 月 26 日

第6章  大地を振りはらうこと  Nakatani Norihito’s Blographyにてヴァージョン1を公開、2015年 04 月 05 日

第7章  家 コンテクストを動かすかたち  書き下ろし

エピローグ  庭へ続く小径  書き下ろし

主な参照文献は以下の通りです。

 柳田国男「民間些事」『定本柳田國男集』十四巻、筑摩書房、一九六九、今和次郎『日本の民家』岩波文庫、一九八九(初版一九二二)白茅會編『民家圖集』洪洋社、一九一八(古川修文・永瀬克己・津山正幹・朴賛弼編『写真集よみがえる古民 家│緑草会編『民家図集』』柏書房、二〇〇三)内田隆三『柳田国男と事件の記録』講談社選書メチエ、一九九五、柳田国男『山の人生』一九二六『定本柳田國男集』四巻、筑摩書房、一九六八 、柳田国男『故郷七十年』一九五九『定本柳田國男集』別巻第三、筑摩書房、一九七一、柳田国男『遠野物語』一九一〇『定本柳田國男集』四巻、筑摩書房、一九六八、Roxana Waterson, The Living House—An Anthropology of Architecture in South-East Asia, Tuttle Publishing, 2009邦訳:ロクサー ナ・ウォータソン、布野修司監訳『生きている住まい─東南アジア建築人類学』学芸出版社、一九九七、佐藤浩司「建築をとおしてみた日本」『海から見た日本文化』〈海と列島文化〉 10 巻、小学館、一九九二、大河直躬『住まいの人類学─日本庶民住居再考』平凡社、一九八六、 R. H. Barnes, Kédang: A Study of the Collective Thought of an Eastern Indonesian People, Clarendon Press, Oxford University Press, 1974、宮本常一『日本人の住まい─生きる場のかたちとその変遷』農山漁村文化協会、二〇〇七、 鈴木棠三『佐渡昔話集』民間伝承の会、一九三九 柳田國男編『佐渡昔話集』〈全国昔話記録〉第一編、三省堂、一九四二、関敬吾編『日本昔話大成』四巻「本格昔話三」角川書店、一九七八、太田邦夫「空間の虚構」『新建築』一九六七年七月号、English Fairy Tales, Collected by Joseph Jacobs, Illustrated by John D. Batten, London, David Nutt, 1890、新宮輝夫「「三匹の子ぶた」について」『三匹の子ぶた』講談社、一九九九、谷本誠剛「『三匹の子ぶた』のお話─昔話と児童文学」日本イギリス児童文学会編『英米児童文学ガイド─作品と理論』研究社出版、二〇〇一、Domenico Giuseppe Bernoni, “Le tre ochete,” Tradizioni Popolari Veneziane, 1873. 英語訳:Thomas Frederick Crane, The Three Goslings, Italian Popular Tales, 1875、 大竹佳世「近代における《家を建てる》根源的意味に関する研究─三匹のコブタ・バベル・コルビュジエ」 平成一七年度大阪市立大学建築学科中谷研究室修士論文、Anthony Quiney, House and Home—A History of the Small English House, British Broadcasting Corporation, 1986, 邦訳: アンアンソニー・クワイニー、花里俊廣訳『ハウスの歴史・ホームの物語(上)─イギリス住宅の原形とスタイル』〈住まい学体系 067〉、 住まいの図書館出版局 、一九九五、ロジェ= アンリ・ゲラン、大矢タカヤス訳『トイレの文化史』筑摩書房、一九八七、白井晟一「住宅思言」『新建築』一九五三年一一月号、白井晟一「無窓無塵」『無窓』筑摩書房、一九七九年、初出『婦人之友』一九七七年五月号、白井晟一「虚白庵随聞」「白井晟一研究」企画編集室編『白井晟一研究I』南洋堂出版、一九七八、岡崎乾二郎「建築が思想を持つ条件」『建築と日常』 No. 1、二〇一〇 、アドルフ・ロース、鈴木了二、中谷礼仁監修、加藤淳訳「装飾と犯罪」『にもかかわらず』みすず書房、二〇一五、 アドルフ・ロース、鈴木了二、中谷礼仁監修、加藤淳訳「女たちのモード」『虚空へ向けて』編集出版組織体ア セテート、二〇一二 、アドルフ・ロース、鈴木了二、中谷礼仁監修、加藤淳訳『ポチョムキン都市』みすず書房、二〇一七、ゲオルク・トラークル、中村朝子訳『トラークル全集』青土社、一九八七 エルヴィン・マールホルト、田中豊訳「人間と詩人ゲオルク・トラークル」http://appleorange.cafe.coocan.jp/ 、オットー・バージル、田中豊訳「自己証言と写真記録の中のゲオルク・トラークル」http://appleorange.cafe. coocan.jp/ 、ハンス・ペーター・デュル、藤代幸一、三谷尚子訳『裸体とはじらいの文化史』法政大学出版局、一九九〇、バーナード・ルドフスキー、加藤秀俊、多田道太郎訳『みっともない人体』鹿島出版会、一九七九 、上野千鶴子『家族を容れるハコ 家族を超えるハコ』平凡社、二〇〇二、ミシェル・フーコー、渡辺守章訳『性の歴史I 知への意志』新潮社、一九八六 、フリードリヒ・エンゲルス、武田隆夫訳『イギリスにおける労働階級の状態』〈マルクス・エンゲルス選集〉二巻、 新潮社、一九六〇、フリードリヒ・エンゲルス、戸原四郎訳『家族・私有財産・国家の起源』岩波文庫、一九六五、 ルイス・モルガン、荒畑寒村訳『古代社会』彰考書院、一九四七、 エベネザー・ハワード、長素連訳『明日の田園都市』鹿島出版会、一九六八、 上野千鶴子『家父長制と資本制─マルクス主義フェミニズムの地平』岩波現代文庫、二〇〇九、オルダス・ハクスリー、松村達雄訳『すばらしい新世界』講談社文庫、一九七四、伊藤杏奈、中谷礼仁「SF小説『すばらしい新世界』(一九三二)とイギリス近代都市計画の近親性─エベネザー・ ハワードとパトリック・ゲデスを対照として」二〇一二年度日本建築学会大会梗概、オルダス・ハクスリー、中村保男訳『永遠の哲学』平河出版社、一九八八 、オルダス・ハクスリー、河村錠一郎訳『知覚の扉』平凡社、一九九五、パトリック・ゲデス、西村一朗訳『進化する都市』鹿島出版会、二〇一五、 今和次郎「都市改造の根本義」日本建築学会編『建築雑誌』一九一七年一月号、村田充八『コミューンと宗教─一灯園・生駒・講』行路社、一九九九、 カント、小倉志祥訳「人間歴史の臆測的起源」『カント全集』一三巻、理想社、一九八八、 Howard Mumford Jones, O Strange New World: American Culture—The Formative Years, Viking Compass, 1964、ロバート・N・ベラー、松本滋、中川徹子訳『破られた契約─アメリカ宗教思想の伝統と試練』新装版、未來社、一九九八、 ハンナ・アレント、志水速雄訳『人間の条件』筑摩書房、一九九四、マックス・ウェーバー、大塚久雄訳『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』岩波書店、一九八九、荒井直「「労働」観─キリスト教文化と古代ギリシア」『山梨英和短期大学紀要』30, 17-35, 1996-12-10、藤門弘『シェーカーへの旅─祈りが生んだ生活とデザイン』住まいの図書館出版局、一九九二、穂積文雄『ユートピア西と東』法律文化社、一九八〇 Everett Weber, Escape to Utopia, Hastings House, 1959、岡崎乾二郎、中谷礼仁「発明の射程」『 10 + 1』 No. 15 、INAX出版、一九九八、倉塚平『ユートピアと性─オナイダ・コミュニティの複合婚実験』中央公論社、一九九〇、 バートン・H・ウルフ、飯田隆昭訳『ザ・ヒッピー─フラワー・チルドレンの反抗と挫折』国書刊行会、二 〇一二、 エド・サンダース、小鷹信光訳『ファミリー─シャロン・テート殺人事件』草思社、一九七四、 Janice Holt Giles, The Believers, Houghton Mifflin Company, Boston, 1957、クリストファー・アレグザンダー、稲葉武司訳『形の合成に関するノート』鹿島出版会、一九七八、橳島次郎『精神を切る手術─脳に分け入る科学の歴史』岩波書店、二〇一二、山本貴光、吉川浩満『脳がわかれば心がわかるか』太田出版、二〇一六、立岩真也『造反有理─精神医療現代史へ』青土社、二〇一三、 ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ、宇野邦一訳『アンチ・オイディプス─資本主義と分裂症』(上下) 河出書房新社、二〇〇六、フェリックス・ガタリ、杉村昌昭訳『分子革命─欲望社会のミクロ分析』法政大学出版局、一九八八、フェリックス・ガタリ、杉村昌昭訳『精神病院と社会のはざまで─分析的実践と社会的実践の交差路』水声社、 二〇一二、 R・D・レイン、阪本良男、笠原嘉訳『家族の政治学』みすず書房、一九九八、 R・D・レイン、A・エスターソン、笠原嘉、辻和子訳『狂気と家族』みすず書房、一九九八、 R・D・レイン、村上光彦訳『結ぼれ』みすず書房、一九七三、 Dominic Harris, The Residents, published by author, England, 2012、門眞一郎「キングズレイ・ホール異聞」『精神医療』一三巻三号、一九八四、 ジョゼフ・バーク、メアリー・バーンズ、弘末明良、宮野富美子訳『狂気をくぐりぬける』平凡社、一九七七、 クリストファー・アレグザンダー他、平田翰那訳『パタン・ランゲージ─ 環境設計の手引』鹿島出版会、一 九八四

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rhenin について

中谷礼仁(なかたに のりひと)歴史工学、アーキオロジスト。早稲田大学建築史研究室所属、教授、千年村プロジェクト、日本生活学会、日本建築学会など。著書に『動く大地、住まいのかたち』、『セヴェラルネス+』など。
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