近代美術館レクチャー「動く大地の住まいとジェネリック・シティ」2017年8月19日14時から


現在近代美術館(竹橋)で開催中の、日本近代の住宅建築展「日本の家」に併せてレクチャーを行います。直前になりましたが、告知させていただきます。最近考えていることの一端を、発表させていただく機会としました。戦後にあまり関係ないのですが、細かいことは気にせず大きく考えましょう。

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参考は既刊の『動く大地、住まいのかたち プレート境界を旅する』岩波書店2017年3月の他に、その後、動く大地の旅の時にほとんど出会わなかった近代素材としての鉄素材に関連して考察を進めた分を収録した、近刊『世界建築史』(共著)彰国社、2018年予定の内容を紹介します。

レジュメを公開します。

 

1. プレート境界と古代文明圏

2011年3月11日東日本大震災発生、日本が特殊な場所(唯一無二)であるという認識
日本の国土はプレート境界に位置。その基盤はユーラシアプレート。
それらユーラシアプレート境界付近に、主要な古代文明の発祥地が位置。
破壊だけではなく文明誕生の要件にもなっているのではないか?

重要点)
地球の活動は自律的で莫大なエネルギーを含んでいる。
自然環境とは地球時間と地球のエネルギーが作り上げた構築的結果でもある。
その環境を基盤として、人間が各地でその大地に適合しうる生存方法を見出した時に、
人間の生活ひいてはその文明は発生した。

 

2. Buildinghood 人々の暮らしを支える大地からの構法

Buildinghoodの気づき
ある地域の人々の生活の成り立たせ方(=Livelihood)の中で、その中心をなす空間の構築方法
LiverihoodとBuildinghoodとの関係を、褶曲運動によって生まれた世界最大の山脈である
ヒマラヤの麓に位置する高山地帯のサトリ(saitoli)という小さな村で事例報告。

Buildinghoodは人の住む場所、集落形成の方法そのもの。
現在でも世界各地の集落の多くは、その近傍の大地を素材として利用して集落を作り上げている。
その意味で集落とは大地をその皮一枚浮かして、
そこに人間が住まうことのできる空間(ルビ:あきま)を作ることと定義。

その浮かせ方、要は空間を作る方法は大地が産出する素材によって大きく異なる。
これが大地からの構法(Builinghood)の違いとなる。
以下、代表的な、石、土、木についてその特徴をあげる。

 

3. 芸術をも産んだ石灰岩 石は建築の父

石は横穴洞窟などのもっとも自然状態に近い住居の基盤。
そのような原始的な状態から次第に、石を材として切り出し、細部を加工できる技術が進むと、
石がもつ圧縮に対する耐力が構法として期待されるようになった。
加工した石を垂直に積み上げて作られていくギリシャ神殿建築が典型→
まぐさ(柱梁)式の石造建築の誕生。
しかし石造建築における最大の弱点は石の塑性によるせん断(折れ)。
この弱点は石を梁などの横材に用いた時に顕著に現れる。比例と素材の関係が重要
→ギリシャ神殿の美的テーマ

石灰石、大理石が神殿建築の素材としてよく用いられたのは、それらが石としての
耐久性を確保しつつ、比較的軽便なこと、肌理、色目が均質であること、加工がしやすいこと。
人間に彫刻芸術という重要な技芸を授けた(ギリシャ、ペルシャ帝国など)。

 

4. 文字をも発明した土-レンガ 土は建築の母

土は地球の表面に露出あるいは隆起した各種岩石が風化した結果の微細な破片の総称。
沖積世(完新世)とよばれる、およそ1万年前から現在までの間にいたるところに堆積。

土は遍在。土を建築素材として用いるには加工方法の発明が必要。
→レンガ製造。

土を型枠で整形し乾かし固める(日干しレンガ)だけで、
土はそれを石造のように組積することができるようになった。
レンガの大きさは人間の作業上の普遍的な寸法に深く関係。
レンガは土くれから空間を人の手によって作らしめる発明。
レンガによる建築行為はジグラットの遺跡立地に代表されるように
メソポタミア周辺地域で特に栄えた。

そこは同時に文字の発明地だった。
シュメール人による楔形文字という世界最古の文字の発明。
生乾きの粘土板に葦のペンを押し付けることによって記録。

レンガによる組積はその後一大発展を遂げる→6. 都市のBuildinghoodへ

5. 共同性を生んだ木

建築行為には、ある時点で集団による共同行為が必要。
その共同性を建築発展の契機として大きく内在させていたのが木材。

木造において、単独的な作業で可能なのは、地面に穴を掘って柱を立てる掘立柱。

その後の弥生時代においては高床式倉庫が発展した。
床は大地を離れ空中に浮上→軸組が発展し、柱をつなげる貫等の横材が発展。
仏教伝来とともに伝わった建築様式の影響によって、石場立てを採用。

これら施工はもはや単独、もしくは少人数の施工者のみではなしえず、
縦横の木材を同時に共同で組み立てる必要があった。
木造建築が社会的様式として発達した地域では、
木造建築の構法には必ず強い共同性が刻印されている。皆でできる施工レベル。結(ユイ)など。

日本の伝統的木造建築のみならず、各地には様々な木造建築の儀式がある。
たとえば、インドネシア・スンバ島のソダン(Sodan)という集落で実見した上棟の様子、
村一丸となった建築の風景。

6. 都市のBuildinghood

大規模な歴史的都市は一般に土の大地に立地。
河沿いのフラットな低地→建築の母との関連性。
柱や梁を持たない組積造であるレンガには、最大の問題→屋根をレンガで覆い渡すこと。
平面規模の限界を克服したのがアーチ構造。

アーチ構造→素材間の摩擦で円弧状に組み合わせて、荷重を両脇の壁に一体的に伝達する方法。
アーチ面を水平に押しだせば、筒状のボールト構造。
アーチの中心を支点として回転させれば、ドーム。

この構法は土や切り石しか手に入らない環境で人々が空間を作るための
ごく日常的な技術からはじまった。現存するエジプト・テーベで作られた型枠なしのボールト倉庫。
庶民的技術+高度な幾何学性の統合→都市発展の基礎
アーチの持つ幾何学的原理性は大空間に発展する可能性があった。
それを実現したのが、ヨーロッパ、地中海周辺世界を覇権したローマ帝国。

ローマはレンガの帝国。
その主要構造はもっぱらレンガ造。
ローマの建築技術が、日常から発生したレンガ・アーチ技術と地続きであったことこそが、
帝国化に幸いした。→弱い技術(中谷「セヴェラルネス」2005、増補11)

セメントの発明
切石を骨材としてセメントによって硬化させるこの技術はいわば土と石の結婚、混合技法。
紀元128年、ローマ市内に直径43メートルの球体を完全に収納する万神殿=パンテオンが竣工。

スキンチ、ペンデンティブへの展開
使い勝手のよい方形の平面にいかに円形のドームを載せるかという課題。
その主な解決法がスクィンチ、ペンデンティブと呼ばれる二つの構法。
土くれから作られた都市とは以上のような幾何学による建築の増殖過程。
例)シリア・アレッポのパサージュ

7. 鉄の特殊性 ジェネリック・シティのBuildinghood理解のために

現在進行形の、ジェネリック・シティとも名付けられた世界各地で急速に拡大する
「似たような」都市の作られ方はどのように位置付けられるか。

ジェネリック・シティは非歴史的な都市の具現化として規定(クールハース)、
果たしてそれは正当な評価だろうか→なぜなら非歴史な具体物はありえないから。

ジェネリック・シティのBuildinghoodの特徴→軽く、メンテナンス不要で、
いつでもスクラップでき、かつ再生できるもの。

伝統的なBulidinghoodの遍在性に対して、
19世紀の産業革命時に突然現れた建築用の鉄素材、特に鋼鉄こそが、
現在の都市の、横に上下に拡張し続ける特性(ジェネリック的Buildinghood)を具現化。

鉄という、自己形状を様々に変容、伸長させうる素材そのものの尋常のなさ。
→WTC(ワールド・トレード・センター、1972)が一瞬にして溶け去るという異常な事態。

INTERACTIVE SKYSCRAPER MAPSによる超高層建築の立地の基本条件。
超高層建築はその建設と使用双方に
大規模な交通移動が一体的に計画されていなければならない。
超高層都市の到来を告げたアメリカにおける歴史的二大都市、シカゴとニューヨーク
鉄鋼はどこからやってきたか。
なぜアメリカの製鉄/製鋼所が東海岸に集中しているのか。

かつ鉄には、極めて特殊な地球時間が含まれていた。
鉄は、私たち人類がこれまで見たこともなかった地球時間を含めて私たちに直面。

 

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rhenin について

中谷礼仁(なかたに のりひと)歴史工学、アーキオロジスト。早稲田大学建築史研究室所属、教授、千年村プロジェクト、日本生活学会、日本建築学会など。著書に『動く大地、住まいのかたち』、『セヴェラルネス+』など。
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