新刊『動く大地、住まいのかたち−プレート境界を旅する』3月25日発刊


2013年に行ったユーラシアプレート境界をインドネシアからジブラルタルにまでいたった調査旅行。雑誌『科学』での連載を経て、3月25日に岩波書店から発刊されます(予価2808円(税込))。本日再校を放しました。あとはうまく書物になってくれることを願うばかりです。著者判断で、あとがきを掲載します。本書の成り立ちを書きました。

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あとがきに代えて

偶然に多く出会う旅をすることは幸せなことである。そのためには、何か大きなテーマを持っていたい。プレート境界を旅するというアイデアを獲得したことは幸運だった。その発端は文中でも記した通り、防災学者の友人が講演中に発した一言を2011年の東日本大震災発生時に思い起こしたからだった。牧紀男という人物である。その発端が示すように、この旅は各地に関する先達や友人の助力によって実現した。

旅は大きく4つの範囲に分けて、日本国内での準備と現地訪問を繰り返した。2013年の1月から一ヶ月をインド・ネパール、同2月後半から3月までをイラン、5月から6月までをトルコから、キクラデス諸島、ギリシャ、イタリアのシチリア、チュニジア、そしてジブラルタル海峡のあるモロッコまでぬけた。そして7月から9月までをインドネシア諸島を訪問し、マレー半島に到達して旅を終えたのだった。
インドの寄宿先となってくれたジャガン・シャー(Jagan Shah)は、ニューデリーの都市政策を担う専門家であった。灼熱のドーラヴィーラや早逝した友人の建築家の足跡を訪ねてダージリンへ一緒に旅をした。
ウッタラカンド州の小さい村への訪問を勧めてくれたのは、インドのアトリエ設計事務所のスペースマターズ(Space Matters)の気鋭の女性建築家たちである。また彼女たちに紹介された建築科の学生シュビ・アガルワル(Shubhi Aggarwal)が同地の実測作業に参加してくれたおかげで得た情報や経験は大きいものだった。
ネパールでカトマンズの歴史と街の成り立ちを教えてくれた建築家カイ・ワイズ(Kai Weise)は、2015年のネパール地震で倒壊した歴史的建造物の修復に躍起になっている最中だろう。
はじめての訪問地であったイランの経験を実り多いものにしてくれたのは、旅に同行してくれたイスラーム建築研究者の深見奈緒子だった。後述する佐藤浩司、テヘラン大学で建築修復学を学んでいた奥山岳典が参加し、分野の異なる同行者たちの会話によって認識は広げられていった。
トルコ各地の旅行計画は、現地の若い建築家たちのサポートによって可能になった。特に前半を一緒に旅したイェルタ・コム(Yelta Köm)やシリア国境に面するマルディン-天国のように美しい街-にある建築学校Mardin Artuklu Universityの教員スタッフからのサポートがあった。トルコを旅立った直後にイスタンブールで反政府デモが発生した。その頃からまた世界の雰囲気が変わりはじめていた。その影響をかわすように旅は西に続いた。
ギリシャ・マルタの古代文明の石造をめぐる旅は、既に同じテーマで一緒に旅をしていた原始文明研究者の若手の酒井智幸が同行した。石の重さを確認する旅は彼の同行によってより確固なものとなった。
シチリアで発生した地震後の復興地の訪問では、同地の若い建築家セレナ(Serena Casamento Barbitta)が目的に賛同して積極的に動いてくれた。それによってシチリアの社会構造上の問題まで突き当たることができた。また彼女や先のトルコの建築家ネットワークを紹介してくれたのがオランダ在住の建築家・吉良森子である。
チュニジアからモロッコでの経験を知的成果で裏打ちしてくれたのは、地中海建築・都市研究の第一人者である陣内秀信、新井勇治である。またモロッコのフェズで活躍中のアーティストの松原めぐみからは、フェズの様々な階層の人々の暮らしぶりを深く教えてもらった。
最も長期にわたったインドネシア諸島訪問に際して、同地の少数民族の伝統的住居を長年研究してきた佐藤浩司の同行を得たことは、深見の場合と同じく幸運だった。彼によって鍛えられ、インドネシアだけで相当量のノートを書き溜めた。さらにインドネシアの現代都市を研究していた林憲吾の参加によって、多角的な視点から、眼前に広がる人間の場所の意味を検討することができた。
そして道を尋ねるわたしたちに心広く対応してくれた土地の人々がいた。
思い出すのは、激しい風景を一緒に経験したそんな人々の姿や声である。

この旅の報告は、事前勉強と現地ノートとGPSと現地で撮影した写真、動画記録、帰国後の文献調査に基づいている。特にGPSによって自分の足跡が後から復元可能になったことで、直観を優先して調査することができた。
通信事情の悪い現地から自分のブログにアクセスできるときは可能な限り更新した。旅程を示すGPSやウェブ用に加工した位置情報つきの写真データ約5万枚は公開した。実際、頻繁にまとめておかないと、この旅の記録はおもいがけない出来事で消滅してしまう可能性もあったからである。
帰国後、私からの相談を受けとめてくれたのが、岩波書店の伊藤耕太郎氏である。伊藤氏は、雑誌『科学』の田中太郎編集長に相談してくれ、田中氏は歴史あるその雑誌に連載を決めてくれた。幸運なことで、その結果コンスタントに書き進めることができた。特に地質などについてにわか勉強であったので、読者の方々からの指摘を待つことにした。今後ともぜひご指導ご叱咤をいただければと思う。当方の乱筆乱文を指導し、品格ある書籍にしていただいたのは高村幸治氏、本書に含まれるたくさんの情報を的確に形にしていただいたのは前田耕作氏である。

最後になるが、留守宅を維持してくれた家族、授業を肩代わりしてくれたり、旅行中に励ましのメッセージを送ってくれた友人、指導教員の不在が功を奏してたくましくなった学生たち、そしてこの特別研究に対して活動資金の一部をサポートしてくれた勤務先の大学に深く感謝したい。

2017年2月21日 中谷礼仁

  • タイトル:動く大地、住まいのかたち−プレート境界を旅する
  • 内容紹介:動く大地はユーラシアのプレート境界域に何をもたらしたか。環境を創造し、時に社会を壊滅させる地球の驚異的な働きと、その地で生き抜く人々の叡智と暮しを活写。人間生存の条件を捉え直した類を見ない建築論的旅の記録。[カラー写真多数]
  • 目次:

    プレート境界の旅 全旅程図

    I Buildinghoodへの気づき | インド、ネパール
    1 土地のかたち、人の住まい
    2 パンゲアのかけら
    3 溜まる街

    II 建築の父、建築の母 | イラン
    4 火山によって支えられた住まい
    5 建築の父、建築の母
    6 境界を越えて

    III 石の重さ | ギリシア、マルタ
    7 巨人から人間へ
    8 石と遊ぶ

    IV グローバライゼーションとつきあう方法 | トルコ、イタリア、シリア、チュニジア、モロッコ
    9 カッパドキアでの生活
    10 シチリア・ベリーチェ 一九六八/二〇一三
    11 ワールズエンドの風景

    V 人間の場所 | インドネシア
    12 死と大地
    13 大地から縁を切ること
    14 人間の場所

  • 単行本: 256ページ+α
  • ISBN-10: 400022235X
  • ISBN-13: 978-4000222358
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rhenin について

中谷礼仁(なかたに のりひと)歴史工学、早稲田大学建築史研究室所属、教授、日本荒れ地学会、日本生活学会、日本建築学会などなど。その正体はResercher of temporal architectural expression.
カテゴリー: "On the Edge Tour 2013", Publications パーマリンク

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