ナイスガイ・Kai WeiseとKathmanduを潜る- Long Architectural Journey along edge of Plate Tectonics, in Nepal-


1. 盆地のbuildinghood

日本の研究者は、ネパール好きとよく聞く。その理由はカトマンズに行ってよくわかった。風景が似ているのである。風景が似ていると、食べ物もその生産量も似てくるし、その結果その配分を担当する地域共同体もある程度は似てくるやもしれない。
筆者は2013年1月27日インドのデリーをあとにして、カトマンズに向かった。計画としては以前の計画案の通り、日本で行っている千年村運動で環境班から提示のあった水系による分析を行うことにした。
カトマンズは盆地である。北方のヒマラヤから流れ込んでくる複数の水系が、そのままインドに流れるのではなく、カトマンズでいったん溜め込まれるのである。その結果この古都の地形(地質)ができたのだ。

古くからの言い伝えは、この地が巨大な湖であり、その後の水系の変化によって徐々に大地が顕在化した土地であったことを伝えている。カトマンズ北西に位置する、ネパールと言えば誰もが思い出すあの眼が描かれているスワヤンブナート(Swayanbhunath)パゴダの立地はもとその中の孤島であったともいわれているのである。その堆積層の厚みの膨大さは以下の九州大学の桑原義博先生のご研究をご確認いただきたい。

fig06
そうなると、この1月中に僕が行った他のインドのヒマラヤ南部ともっとも違う地形(地質)の性質とは、カトマンズが盆地であり肥沃な粘土層でできているということである。ここではインドのダージリン、ウッタラカンドでは無理であった稲作が実現しているのであった。このlivelihood(生存の手だて)が、見事にBuildinghood(構築の手だて)につながるこのシーンをまずはみていただきたい。(下の写真をクリックすると動画に飛ぶ)

DSCF4845
棚田が開発され、その土地が日干し煉瓦製作所になり、その真ん中に焼成煉瓦工場の煙突がある。おお明治の頃の群馬辺りはこんな風景なのだったのかもしれないと思う。ダイナミックだ。

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棚田→煉瓦原資料場兼日干し煉瓦置き場→焼かれるのを待っておられます。

2. カイ・ワイズ(Kai Weise)の紹介
さて、次に僕が駆け込んだ現地の友人を紹介したい。スイス系ネパール人のKai Weise(彼のブログhttp://paharnepal.wordpress.com)である。カイとはmAANも共催したBHOPAL2011ワークショップで知り合った仲なのである。実にナイスガイな印象だったので、ネパールに行くならカイに絶対会うと決めていたのだ。カイ紹介のカトマンズの隣の古都であるPatanにある、ユネスコの指導で古建築を修復したホテルNewa Chen(http://www.newachen.com)に滞在し、水系による古都巡りを彼に相談することにした。おおむね当方の計画はよしということになったが、二つ大きなおまけがついた。一つはカイによるカトマンズ深層ツアーであり、もう一つはあまり知られていない古都の紹介である。というわけで僕のカトマンズ訪問は都合四日の探索旅行となった。
1日目(1月29日)カイとカトマンズ(Kathumandu)探索
2日目(同30日)バクタプル(Bhaktapur)、パナウティ(Panauti)訪問
3日目(同31日)ナガルコット(Nagarkot)からチャング・ナラヤン(Changu Narayan)寺院までトレッキング
4日目(2月1日)カイおすすめのブングマティ(Bungmati)、キリティプル村(Kirtiple)訪問
以下が僕のすべてのカトマンズ周辺のトレッキング記録である。

2013-02-11 21.23.29

まず紹介しなくてはならないのはとりもなおさずカイという人物のことだ。

DSCF4390

(↑カイが少年時代を過ごした父親の家。今は高級レストラン)

彼の父親は実はネパール最初の建築家であった。そして20世紀の重要な政府系の建築物を設計した。カイはスイス系ネパール人なのだ。そして彼も建築家で、新築も行えば、UNESCOなどと協力して建築保存の中心的存在として活躍している。きわめて多忙な人物なのであった(でもナイスガイ)。彼がどれだけナイスガイか、以下の旧友との偶然の再会シーンをみていただこう。(写真をクリックするとYoutubeにとぶ)

DSCF4413

3. 1日目(1月29日)カイとカトマンズ(Kathumandu)探索
カイは父親のつくったホテルに僕を招待し、そこで30分程度のカトマンズ早わかり説明が始まった。テキストは、彼がETH(チューリッヒ工科大学)の修論の一部で発表したわが故郷カトマンズの街区構造(Urban Fablic)論である。歴史から始まって、古都の主要要素の説明、街区の変容の仕方がたちどころにわかる名論で、これなんで出版されなかったの?ときいたら、じゃ、お前出版していいよというので、彼の許可を得て、彼の修士論文のスキャンの一部をダウンロードできるようにしておきます。落書きも入っているがご容赦。
ごく乱暴にいえば、
Kai'steshis0001 Kai'steshis0002Kai'steshis0003 Kai'steshis0004 Kai'steshis0005 Kai'steshis0006 Kai'steshis0007 Kai'steshis0008 kai's thesis 0009

・カトマンズは谷間を通ってチベットまでつながる交易路と水系の拠点に存在する。
ということで、千年村での検討結果にかなり近い結果が指摘されていた。
細かい街区構造は、
・いくつかの方形の僧坊の廻りが商業化されて、それがアメーバのように増殖しくっついて、街区が形成されていくこと。(これは中世京都の発展の仕方と似ているではないか)。カイが旧友と再会しているのは市街に残る地域が維持している僧坊(コミュニティホールでもある)であり、彼がその管理人なのであった。
・それゆえ道には大きく二通りあって、交易路と居住者のための方形の中庭を連結していくような路地である。
以前先行デザイン宣言と言う雑誌の特集にコンゲンカード(先リンクの下の方にあり)という都市成立の条件カードを上げておいたのだが、まさにその重なり合いのような感じでカトマンズができていた。

・それから近代になって被った外郭の構造的変化

カイはその層を、本当のアースダイバーとして潜りながら僕を案内してくれたのだった。

カイ「ロッシのあの本なんっていったっけ?」

僕「『都市の建築』でしょ」

カイ「あ、そうそう。ああいうのもう一回読まないといけないんだと思うんだけど、忙しくてねえ」

同世代的な知識とセンスが共通している人と町を歩くのは楽しい。

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↑オールドトレードロードの様子。イスラム的な二階以上のつくりかたまで伝播しているようだ。

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街区から外れるとしだいに都市の輪郭が混沌としたものになってくる。

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最後私たちは、もと(カトマンズ)湖の上の島であったと言うスワヤンブナート(Swayanbhunath)にのぼった。パゴダの前に立つとこの地が見事な盆地であることがわかる。

面白い話をカイから聞いた。2001年の王族暗殺事件以来、生き残った王族がその正当性の立証に躍起になっているとき、パゴダの横に位置するヒンズーの祠が内部から燃えたのだそうだ。この祠はパゴダの威光を直接ではなく反射させて王宮にたどり着かせる建造物であり、その当時の王族は大騒ぎになったそうだ。秘密裡に新造したらしいのだが、まもなく落雷によっておなじ祠が再び焼けてしまったのだと言う。2013年現在、王制はすでに廃止され、現在はマオイストが政権をになう国家となってネパールは続いている。
「ネパールとは何か、それにネパール人はずっと悩んできたんだよ。多民族国家だし、いろいろな抗争もあったしね」などと述懐するカイの静かな態度が急に最後に変わった。

スワヤンブナートの入口のことである。ネパール人の入場はただ。外国人は高めの入場料が必要なのだが、カイが入場料を要求されたのである。「ネパール人とは何か」を話していた矢先であった。門番との言い争いはネパール語だったのでよくはわからなかったが、まさにそれはネパール人とは何かという話だったと思う。

「カトマンズは混沌としている。でもわかるやつにはそこに秩序がはたらいていることがわかるんだよ」と彼は言って僕と別れた。カイ・ワイスは本当のナイスガイであった。奥さんが有名なロックシンガーなのも致し方ないことだと思う。(ネパール編は続きます)

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rhenin について

中谷礼仁(なかたに のりひと)歴史工学、アーキオロジスト。早稲田大学建築史研究室所属、教授、千年村プロジェクト、日本生活学会、日本建築学会など。著書に『動く大地、住まいのかたち』、『セヴェラルネス+』など。
カテゴリー: "On the Edge Tour 2013", Uncategorized タグ: , , パーマリンク

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