George Kublerと擬洋風建築を融合させたミュータント的論文を寄稿しました。『文化系統学への招待』(共著)


中尾央・三中信宏編著による『文化系統学への招待』勁草書房2012がそろそろ配刊される模様です。

同書は「過去の歴史を推定する系統学の方法を、生物だけでなく広く一般的に文化構築物の時空的変化にも適用できないか?」という壮大な問いかけのもとに様々な分野の執筆者が参加しています。編著者の三中さんのブログから目次を見ることができます。ここでは執筆者とタイトルだけ紹介します。

はじめに(中尾央)
第1章:文化の過去を復元すること:文化進化のパターンとプロセス(中尾央)
第2章:『百鬼夜行絵巻』写本の系統(山田奨治)
第3章:『老葉』に対する系統学的アプローチ:宗祇による連歌の系譜(矢野環)
第4章:系統比較法による仮説検定:社会・政治進化のパターンとプロセス(Thomas E. Currie/中尾央訳)
第5章:19世紀擬洋風建築と G. クブラーの系統年代について(中谷礼仁
第6章:文化の継承メカニズム:学ぶことと教えること(板倉昭二・中尾央)
第7章:イメージの系統樹:アビ・ヴァールブルクのイコノロジー(田中純
第8章:文化系統学と系統樹思考:存在から生成を導くために(三中信宏)
索引

チャート(三中信宏・作成/宗像宏・デザイン)

曼荼羅のようなまとめのチャートも面白かったです。

まだ当方は系統学におけるさまざまな分析方法については詳しくわかっていないのですが、各執筆者における系統樹思考のひな形とその分析事例はきわめて秀逸ですので、ぜひお手に取ってみてください。

当方はなかなか遺族の許可が下りずに刊行できないでいる、美学−考古学者のジョージ・クブラー(George Kubler)の『時のかたち(The Shape of Time)』の考え方を援用しつつ、明治初期の20年間で、いきなり勃興しいきなり絶滅した擬洋風建築の系統的問題について論じています。また変化球を、といわれそうなのですが、気になっている存在なんだから仕方ありません。

擬洋風建築とは、その後に仕立てられた「建築家」とそれを頂点とする建築生産システムが確立される前、近世と、近代との隙間に、近世からの棟梁たちの創意を基本として、できあがった”サムシング・ニュー”なものを示そうとした建築群です。築地ホテル(焼失)や松本開智学校(現存)が有名です。

私見ですが、当方の一応の専門分野である建築について考えると
1建築様式(典型的かつ具体的に名指しできる建築。意識的に規範的であれと望まれ作られ、他者からも認知されたもの)
2具体的な建築(具体的に名指しできる建築。個別条件におけるかたちの決定については意識的だが、強い規範性を伴っていない。)
3匿名的な建築(具体的に名指しできない建築。建築群。因習に従ってつくられる、作る人たちはそれが何であるかを知らないような細部も含む伝統住居など)
というような状態が想定され、私は今、基本的に3に興味を持っています。

「文化系統学」で扱いやすいのは、1、3で
作り手による新奇性など、偶然性の介入しやすい2はなかなか難しかったかもしれません。擬洋風建築はまさに2にあたるものだったかもしれないと、今になって思います。きちんと一つの生物たりえ、その後も存続することのできた生物「様式」と長くとも三代程度で死滅した突然変異体との違いは大きいのだろうと思います。で、あるにもかかわらずなぜ当方が擬洋風建築の誕生を重要とみなすのかも、もう一回考えてみたいと思いました。
現時点では、3について系統樹思考を当てはめてみたいような気にさせられますが、建築史学でこれまですでになされてきた民家の間取りパタンの編年的詳細分析以上の視点がみつかるか、これもこれからさらに考えてみたいと思いました。

広告

rhenin について

中谷礼仁(なかたに のりひと)歴史工学、アーキオロジスト。早稲田大学建築史研究室所属、教授、千年村プロジェクト、日本生活学会、日本建築学会など。著書に『動く大地、住まいのかたち』、『セヴェラルネス+』など。
カテゴリー: Uncategorized パーマリンク