古凡村調査開始(文化財の確実な継承と地域活性化活用のための防災指針の作成と普及)中谷研究室班


3月11日の東日本大震災以来、歴史研究室として何を行おうか検討して参りました。この5年、私と外部専門家有志と当方の研究室では、瀝青会という団体を組織してきました。今和次郎『日本の民家』1922に収録された無名の民家を探し当て、その家の変容からこのおよそ一世紀の日本の変容を、〈家〉から検討するのが目的です。この目標が達成された直後に、震災が発生したというわけです。

これまでのフィールドワークの蓄積をもとに、建築、ランドスケープ、共同体研究、理論、実践にまたがる長期的スパンの調査を開始することになりました。防災学の権威であり芸術文化にも造詣が深い早稲田大学の長谷見雄二を座長とする文化庁からの助成研究「文化財の確実な継承と地域活性化活用のための防災指針の作成と普及」の中の一部隊として展開してきます。初期メンバーは取り急ぎ、石川初(ランドスケープデザイン)、福島加津也(建築家)と当方ならびに中谷研究室有志です。9月17日から19日にかけて調査方法の構築に向けた第一回調査を行います。写真師兼「何かの専門家」の大高隆も、はじめから記録をした方がいいとの打ち合わせの結果、急遽参加していただくことになりました。お礼申し上げます。仙台北部を調査予定ですが、またまとまった時期には報告いたします。以下に通称古凡村(命名:石川初)研究の概要を掲載します。

題目

古凡村研究・文化財の確実な継承と地域活性化活用のための防災指針の作成と普及

早稲田大学中谷礼仁研究室班(中谷礼仁、本橋仁、伊藤杏奈)

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研究概要

幾世紀にも渡り存続し、今なお健全なコミュニティが認められる集落を評価することにより、今後の防災指針を検討する上での基礎資料を提供することを本研究の目的とする。

日本には、既に伝統的な集落の景観を評価する方法として、「伝統的建造物群保存地区」(文化財保護法第百四十二条から第百四十六条)が施行されている。これは、市区町村と住民が一体となり、古くからの町並の保存に取り組むことが出来、またその保全に対して公的な支援を受けることが出来るという点において、大きな意義がある。

一方集落は、人口増減といった住民の変化といった内的要因と、環境変化、技術発展などの外的要因によって、多くの場合、建物や公共設備は更新されながら現代に至っている。さらに地震の多い日本では、時間の経過を経た集落は、過去になんらかの大規模災害の被害を乗り越えてきた場合も少なくない。すなわち、古くから変わらぬ伝統的な集落の風致が今も残されているのは、希少な事例である。

こうした貴重な伝統的風致の評価が必要である一方、建造物等の更新は行われつつも、何世紀にも渡り生活が営まれてきた集落には、防災システムを考える上でも、注目に値する〈背後性〉が存在するものと考える。この度の、2011年3月の東北地方を襲った東日本大震災に際しては、津波による被害を受けていない内陸ではその復旧が早い段階でなされた。例えば、内陸に位置する遠野では復興活動における物流の拠点として、震災の直後から機能している。

前述の様な事例を評価するためには、風致のみならず、地形や地質といった、集落の基盤である「環境」と、それに適応する集落の「構造」、またそこに展開される「コミュニティ」を一体のものとして捉え、評価する必要がある。

伝統的風致の評価である「伝統的建造物群保存地区」を補足する、歴史的集落構造の評価を「持続的環境・建造物群継承地区」と称し、次のように定義したい。

【持続的環境・建造物群継承地区】

「持続的環境・建造物群継承地区」とは、特有の環境条件とそこに存在する建造物群と共同体との間に動的平衡性が古くから持続し、現在においても有効に継承されている地区をいう。

上記の評価軸により、今後の防災指針の策定において有用な新たな集落評価を行っていきたい。

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(図版作成:西吉永一・中谷研究室)

研究方法

・抽出

古代より続く集落を特定するために、以下の方法をとった。

1,平安時代の辞書である『和名類聚抄』から東北の地名を抽出。

2,それらの地名を一覧にまとめ、その内正確に比定可能な地名(全240郷のうち114郷)を選出。

3,各地名をGoogle Earth上にプロットした地図を作成。

・分析

集落分布の特徴を見出す方法の一つとして、古代から現代にまでの共通因子である地質図との対照を実験的に行った。

その結果、古代から現代まで集落が確認できる地域が、沖積層等の比較的新しい地質に正確に分布することが判明した。

ここで、人間が古代より生活してきた集落が、地質学的要因に左右されるのではないかという仮説を立てた。

・調査方針

地質と集落との連関性を明らかにするためには、集落と環境との一対の関係だけではなく、面的な視点が必要となる。

そのため、調査においては対称となる集落を複数取り込む、帯域を設定する。また、その帯域は海岸地域から山間部を含むよう設定する。

この方法によって設定された広い地域における集落同士の連関構造と、地質とを対照させることにより、その影響関係を明らかにしていきたい。

*なおこの研究には、様々な分野の先行研究が存在しています。現在それらも勉強中。私たちのアドバンテージは古凡村【持続的環境・建造物群継承地区】の概念規定と、その客観的場所指定に用いた資料の組み合わせです。

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rhenin について

中谷礼仁(なかたに のりひと)歴史工学、アーキオロジスト。早稲田大学建築史研究室所属、教授、千年村プロジェクト、日本生活学会、日本建築学会など。著書に『動く大地、住まいのかたち』、『セヴェラルネス+』など。
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